"出来ない"と判断することは、"出来る"よりも証明が難しい。 さて、何故お前がそう思ったのか訊かせて貰おうか。 | |
やなぎ れんじ | |
柳 蓮二 | |
クラス:3-F | 身長:181cm | 誕生日:6月4日 | 血液型:A型 部活動:テニス部 | 委員会:生徒会 書記 | 白組 | ペア:千桜英眞 | |
柳蓮二は好く視えている。敵味方問わず観察眼と推察力に長け、部内に於いては技巧派として達人の異名を持つ他、優秀な頭脳を用いて一計を案じる参謀役をも担う。蓄積したデータを許に先読み先回りが過ぎ、他人の言動を先んじて云い当てる妖怪覚じみた真似すら屡々見られる男だ。然しながら、柳から弾き出される解は大凡正確で在れど、柳蓮二は完璧では無い。基本姿勢が観測者ゆえ、第三者的立ち回りが多く当事者に為り難い。或いは進んで陰から支持をするサポーターめいた役処を好む節がある。あらゆる場面も凪いだ冷静沈着な振る舞いは中学生の域を抜きん出るが、真面目一辺倒の四角四面でも無くその柔軟さは、まさに柳の様にしなやかだ。 | |
#769164/老竹色 |
(天高く馬肥ゆる秋の午後。立海大付属中に於ける昼休みのその時間、柳の視界の端に映る生徒のひとりが此方を目指してやって来るのを数百メートル前より認知していた。譬え視線を落としノートに何らかを書き留めている所作を物ともせず、距離が随分と詰められた処で――見計らったよう、ぴたりと止められた筆先。そして手許のノートは閉じられる。)インタビュー、か。(彼女がもの云うよりも前に、双眸すら覗けぬ細い視線が対岸の相手へ向き直った。)新聞部だろう?これより俺に次回の特集のインタビューがしたい、と云った処だな。好いだろう、協力しよう。(未だ一言とて発していない相手が虚を衝かれている等お構いもなく、一切の淀みも無く求める答え迄も既に呈した男は涼やかに。ふたりの間には随分遠慮がちな「お、お願いします…」が響いた。)
柳蓮二。3年F組、テニス部所属で生徒会の書記を務めている。部内に於いても、会計の役割を担っているな。(言葉は"まずはじこしょ、"辺りから被せる様に、一切の過当な回答も無く、平坦で滔々とした口吻。呆気に取られる様子を一瞥し、数瞬を要して凪いだかんばせが嗚呼、とひと呼吸。今思い至ったかのように、説明は続く。)質問を予測するのは簡単だ、新聞部の記事はいつも読ませて貰っている。お前が新聞部の所属であることも予め知っていたことであり、500メートル程遠くから俺を目掛けてやってくる理由も、インタビューの他に無いだろう。……尤も、これより前にインタビューを行った人物や時間から考えて、俺の許へインタビューに来る日時も、大凡予測から狂い無い。目下の行事もあってこの頃は、主要運動部員と体育祭実行委員会に絞られているようだな。違うか?(パズルを組み立てるような語調は如何に説明しようと、相も変わらず喫驚混じりの女生徒を宥めるに至る筈も無い。が、一通りの説明義務を果たしたとばかり、調子の変わらぬ男は「他にも質問があるんじゃないか。」と促して、判ったような口を訊く。)
ふむ――純粋に全てが趣味で、とも云い難いが…挙げるとすれば矢張り読書になるだろうな。もっと趣味という側面に寄せて云い直せば、読書尚友だろうか。(仄かに思案の所作を挟み、伏せたような瞼から眼差しを手向ける。微かに傾いだ首はその反応を窺い、結果。)読書尚友とは、書物を読むことにより過去の賢人を友とすること……つまり作者の人柄や人格、その頃の時代背景を明らかにするようなことを云う。(相槌等の理解した様子が窺えなかったため、淡々と、生ける字引の如き解説が入った。顔色を変えずに続ける。)先にも云ったが、本自体を楽しむものとしても確かに読書が俺の趣味ではあるが、調べものの為に書物を手に取ることも多い。読書量の割合としては半々、と云った処か…ゆえに読書と云う行為で一括りにするならば特定のジャンルを読む訳ではなく、濫読な性質だと思うぞ。本を読む量ならば週に十冊はくだらないな。(つらつらと零れる丁重な解説の一体どれほどがその手のメモに書き付けられただろうか――いかにも必死な手の動きを追っては要らぬ心配を心に留めないでもないが、口出ししまいと薄い唇を結んだ。)
(全く追い付いていないで在ろうメモの手を待ち、次いで意気揚々と上げられた質問者の声音にも柳蓮二は全くの無反応だが、)学内の新聞で、この手の統計をとっているのは珍しいな。(声音は変わらず平坦ながら、些か興味深そうな様相を纏っている、ようにも思しく。)然し忠告しておこう、質問する相手は選んだ方が好い。俺に訊くなという意味では無くな。(ひとつの懸念から、静かな声音で忠言を添えた。何故ならこの手の話題を投げ掛けようものなら、怒号に聞き紛う声をこのいたいけな新聞部員が受けかねんと踏んだからだ。現代に於ける武士か、そう思い当たる友人を知っている。)俺の答えならば、"いない"。それからそうだな、"張り合いのあるひと"……と、云っておこう。(その答えこそが質問の枢機であれど付随するように続け、噤んだ口唇は仔細を語るつもりは無いと主張するようだった。)
主には日頃では余りないデータがとれることを期待している。この期間に見えてくる各々の新たな課題も在るだろう、俺としても更なる高みを目指すにあたって――……負ける訳にはいかないな。(弁舌さわやかに、薄く零した吐息が此処に来て漸く微かに笑気を孕んだ。凪いだ漣が揺らぐよう、比較的穏やかな性質で在れど、決して負けん気に劣ってはいないらしい。それも束の間。)時に、(光らせた闘志も瞬時、すっかり生来の涼やかさを取り戻したかんばせ。まるで柳の声が契機だったかのように改まったその刹那、予鈴が鳴り響いた。)午後の授業が始まる迄、あと四分と五十七秒―――今直ぐ戻らなければ、五限の始業に間に合わない確率が跳ね上がるな。
嗚呼、次号も確り読ませて貰うよ。ではな。(柳の声を聞き即座踵を返すよう、慌ただしい挨拶と共に去っていく背を見送りながら「廊下を走ると危ないぞ。」等と澄ました顔をして新たな忠言を添える。敢えて云う迄も無かっただろうと思えど、忠告が遅かったのは否めないが――相手の所属しているクラスと次の時間割を把握し、恐らく余程のことが無ければ間に合わないことも無いだろうとも踏んだ上でだ。さて。インタビューを受けるにあたって一旦は閉じたノートを開き直し、静かに何かしらを書き付け始めた。一体先のインタビューで、この男が何の情報を得たやら。その肌身離さぬノートの中身は誰も知る由無く――柳の筆が走り終える頃には、軽快に走り去った足音もあの速度であれば教室に辿り着く迄後一分も掛からないだろう。そんな想起をしながら、柳蓮二も己の教室へと静かに戻る。五限目始業、三分前。)