もう年やから全力疾走したら足腰痛うてかなわへんわ〜〜…
……、今のは「自分中学生やろ!」ってツッコむとこやで。
あらがき みず
新垣 瑞
クラス:2-C | 身長:160cm | 誕生日:3月1日 | 血液型:B型
部活動:なし | 委員会:体育祭実行委員会 | 赤組 | ペア:丸井ブン太
一年の秋に大阪から転校してきた少女の印象は、一言で表せば「近寄り難い」といったところか。平均より高い身長が見下ろす双眸はつり目がちで、まるで熱など孕んでいなさそうな冷めた色を帯びる。時折髪の隙間から見える両耳のピアスが威圧感に一層の拍車を掛けるものの、外見を乗り越えて一度話してみれば表情は目まぐるしく変化し、クールとは無縁の饒舌かつ関西人気質な喋りが口悪く飛び交う彼女の本性が知れよう。いわゆる内弁慶の少女は気を許してしまえば情に深く甘えもするが、そうでない相手には借りてきた猫状態でしか接することの出来ない何とも不器用な生き物である。
#73aed5/セレスト

1::「こんにちは〜!新聞部です!次の特集『実録!〜立海生のホンネ〜』インタビューにご協力頂けませんか?」

……つっ、か、れ、た(それと、緊張する。ドキドキする。怖い。楽しい。大変。――掬い上げればキリがない数多の感情が綯交ぜになって冷や汗なのかただの汗なのか、よく分からない何かが額を這う。時は実行委員会の招集帰りの昼休み。チャコールブルーの制服に腕を通した一年前には夢にも思わなかった、そんな多忙かつ多くの人と接する事を求められる日々によって擦り切れた神経を癒やすかの如く、「体育祭実行委員のしおり」なる書類を端に置き捨てて好物の牛乳で喉を潤していた最中。思考を荒らす声が一つ、落ちてきた。)…… は?(突如掛けられた声の主は見知らぬ女子生徒だが、ここ数週間で面識の殆ど無い生徒に声を掛けられるのには体育祭実行委員という立場上、慣れていた。まして本人に威嚇する気もなければ、敵意も持ち合わせていないのだが如何せん声も声だし、表情も表情。ハスキーな声色は常より覇気がなく、人見知りのキャパシティをゆうに超える日々で良くも悪くもすっかり疲れていた少女の目つきは凄みが増しており――すなわち、メンチ切っているようにしか見えない仕上がりであった。そんな顔に睨まれた(と思われている)とあって、ヒッ、と息を呑む声にもならない音が眼前の彼女から発せられれば、慌てたようにはっと立ち上がり、頭を振るうのだ。)や!!っちゃうくて!!……に、睨んだワケちゃうねんで、誤解、せんといてな。元々目つき悪いだけで、よぉ言われんねんけど、ホンマに嫌いとかちゃうくて?なっ?あっと、その〜〜…………インタビュー?やっけ?ウチで良かったら、えぇよ。

2::「まずは自己紹介として、お名前に学年、部活や委員会などお教えください!」

(唯でさえ転校して約一年、外見と性格ゆえ気安く語らう友人関係とは縁遠い身。これ以上負の印象を持たれては叶わないとの焦燥に塗れる瞳が緩んだかと思えば、相好はゆるく崩れる。今にも逃げ出しそうだった生徒が踏みとどまってくれた事にわかりやすく安堵していたのは誰の目にも明らかだったろう。取材に熱の入っている眼前の彼女は別として、だけれど。)はあ〜〜良かったー…。ほんで名前な、あらがきみず。2年C組。漢字やとガッキーとおんなじ新垣に、瑞々しいの、ミズって字。あ、ウォーターの方の水ちゃうくて小難しい方の漢字やで。(文字を描くように空中に指を走らせていた折「関西の方なんですか?」と方言に対する言及を受ければ頷きでもって肯定を示す。)ん。ウチ1年ときに転校してきてん。せやから部活やろうにも中途半端な時期やーって思て入ってへん。文武両道や言うてる学校やから、怒られるかなって思たけど別に言われんし。委員会は二年なってから、知らんうちに体育祭実行委員に入れられとって……お陰でここん所は毎日『アレやって』だの『コレなんやの』だの、知らんヤツに聞かれまくってクタクタやで。(げんなりとした語調とは裏腹に表情は穏やかささえ携える意味は、続き自覚無く落とされた独り言が語っていて――)……せやけど、よーやっと立海の生徒なんやなって気がして、まあ…、悪ないかな。

3::「ふむふむ、それでは趣味や今はまってることってありますか?」

趣味っちゅー趣味言うたらコレやろか。(言うなり、両手それぞれで耳横を覆う髪を真後ろに大きく掻き上げて示したのは左耳に四つ、右耳に三つの全て異なる意匠やデザインが施されたピアス達。鈍く光るそれらを見せつけるような姿勢を数秒キープしつつ)一個開けたらクセになってしもて、気がついたら二年ちょいでここまで増えてなあ。穴は流石にもう増やされへんから、代わりに色々集めんのにハマっとる。(自嘲めいた笑み浮かべつつ髪から手を下ろしてもなおまじまじと視線をよこされれば、にやりと三日月型に唇をかたちどって「興味あるん?開けたろか?」と冗句を向けた。)

4::「ずばり!彼氏っていますか?いないなら好みのタイプとか教えてください!」

今更やけど校内新聞のネタ言うわりにはなんや、グイグイ合コンみたいなのぶっこんでくるなあ自分。校内新聞そないしっかり読んだ事あらへんけど毎回こないなネタなん?(転校生とはいえ既に一年近くは在籍しているのだから件の新聞も見かけた事くらいは有った。とは言え目に留まる校内ニュースに親近感を容易く覚えられるほど純粋でも単純でも無く、思い出そうとて輪郭がぼけた程度にしか浮かばない。そうあっては在り方について言及するだけの確かな武器もなく、大人しく問われるが侭を受け止め、唇を動かくほか無い。)はあ……此処で居る言うても、居らん言うてもウチが得すること無さそーやしノーコメントにしとくわ。……あ?好きなタイプも一緒、ノーコメントやノー!コ!メ!ン!ト!!  ……第一、知ったところで誰が喜ぶねん。ホンッマこういうむず痒い話苦手やねんて〜〜もうええやろ〜〜…はよ次の質問してや……。(気恥ずかしい話題に思わず両手で顔を覆いながら、苦し紛れにそう答えるのが精一杯であった。)

5::「最後に!もうすぐ体育祭の準備が始まりますね。体育祭への意気込みをどうぞ!」

えー…意気込み言うたかて、実行委員の本番は体育祭が始まるその瞬間までや思てるから、ウチが頑張るんは甘く見積もっても当日の朝までやで。(最後の問いへと向ける返事は間髪を入れずに紡がれた。面食らったのか「えっ?」と女子生徒が聞き返すならばやはり同じ台詞を繰り返しつつ更に言葉を重ねた。)せやから、無事体育祭始まったらお役ごめんっちゅーことで、どっか日陰で寝とっても許してなって事。(にっこり)…………何?全校競技?  そんなん知らん(盛大に。悪びれる様子もなく。それはもう盛大に、女はすっとぼけて見せた――運動が大いに苦手であるという事実を胸に秘めて。)

6::「ご協力ありがとうございました!次号の新聞配布、楽しみにしててくださいね!」

はいはい、ごくろーさんです。ほな次会うた時に感想言うたるから、…嫌やなかったら話しかけてや。(言葉少なな労いとともに添えた笑顔は話し始めた頃よりも幾分と穏やかで、緊張も解ければ自然と次の邂逅を望む言葉が浮かんでいた。)あっ、念のため言うとくけど、最後のヤツ記事にしたらあかんで。適当に『やる気満々です〜〜!』とかって盛っといてや。これ某ダチョウナントカみたいなフリちゃうからな。(そう釘を刺す顔には微塵も冗談だとか、揶揄めいた感情は浮かんで居なかった。扉をくぐる最後までそうやって念押ししながら彼女を見送った後――机の上に放置されていた実行委員会のしおりを手に取ると知らずの内に溢れた「…全校競技」の一言。そうしてチャイムにかき消されながら弱々しい、感嘆とも諦観とも取れるような溜息をひとつ、零すのだった。)